自働債権に同時履行の抗弁権が付いている場合~民法解説

    

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今回は、「自働債権に同時履行の抗弁権が付いている場合」を見ていきます。

自働債権に同時履行の抗弁権が付いている場合

【判例】

自働債権に同時履行の抗弁権が付いている場合、相殺することはできない。

※受働債権に同時履行の抗弁権が付いている場合でも、相殺することはできる。

流れに従って、簡単に解説します。

例えば、

Aは、Bに対して、自分の不動産を500万円で売却しました。

この場合、

Aは、Bに不動産を引き渡す必要があります。

一方、

Bは、Aに代金を支払う必要があります。(Aは、代金債権を取得します)

これらは、

「先に代金を支払いましょう!」や「先に不動産を引き渡しましょう!」となっているのではなく、「同時にしましょう!」ということになります。

これが、同時履行の抗弁権です。

つまり、

Aは、代金の支払がなされるまで、建物の引渡しを拒むことができます。

一方、

Bは、建物の引渡しがなされるまで、代金の支払を拒むことができます。

その後、Bは、Aに対して500万円を貸しました。(Bは、貸金債権を取得します)

この場合、

AのBに対する代金債権とBのAに対する貸金債権とを相殺することができるのかどうか?

ここが問題となってきますが、

Aが、不動産の代金はいらないから借金をチャラにしよう!と言うことができません。つまり、Aから相殺することができません。

法律的に言いますと、Aが有している代金債権(自働債権)に同時履行の抗弁権がついていますので、Aから相殺することができません。

理由を見ていきます。

現時点では、

Aは、Bに不動産を引き渡す必要があります。また、Bに借金を返す必要があります。

一方、

Bは、Aに代金を支払う必要があります。

例えば、Aから相殺することができたとします。その結果、不動産の代金と借金がチャラになりますので、以下のように、Bに不動産を引き渡す!ということだけが残ります

Aは、Bに不動産を引き渡す必要があります(←ここだけが消えない)。また、Bに借金を返す必要があります(←相殺によって消える)

Bは、Aに代金を支払う必要があります(←相殺によって消える)

これって、すごく怖いことです。だって、Aが不動産を引き渡す保証がないですよね。

そもそも、Aが不動産を引き渡さないのなら、Bは、代金の支払を拒むことができました。しかし、相殺の結果、その代金がなくなっていますので、Bは、Aに対して、「不動産を引き渡さないのなら、代金を支払わないぞ!」と言えません。

これは怖いです。

そこで、

Bを保護する観点から、Aからは、相殺することができません。

上記と異なり、

Bが、お金を返す必要はないから、不動産の代金とチャラにしよう!と言うことができます。つまり、Bから相殺することができます。

法律的に言いますと、Bが有している貸金債権(自働債権)に同時履行の抗弁権が付いているのではなく、Aが有している代金債権(Bから見れば受働債権)に同時履行の抗弁権が付いているだけ、つまり、同時履行の抗弁権を放棄するだけですので、Bから相殺することができます。

理由を見ていきます。

例えば、Bから相殺した結果、不動産の代金と借金がチャラになりますので、以下のように、Bに不動産を引き渡す!ということだけが残ります。もちろん、上記と同じです。

Aは、Bに不動産を引き渡す必要があります。また、Bに借金を返す必要があります

Bは、Aに代金を支払う必要があります

これって、すごく怖いことです!とは言えません。

だって、Bから相殺しているんですよね。正直、怖いのなら、相殺するなよ!となります。

Bを保護する必要はありませんので、Bからは、相殺することができます。

問題にチャレンジ

次の記述は、民法の規定及び判例によれば、正しいですか?それとも、誤っていますか?

債権につき、弁済期が到来していれば、その債権の債務者が同時履行の抗弁権を有していても、その債権の債権者は、その債権を自働債権として、相殺をすることができる。

解答:誤り

自働債権に同時履行の抗弁権が付いている場合には、相殺することができません。

問題にチャレンジ

AのBに対する金銭債権(以下「甲債権」という。)とBのAに対する金銭債権(以下「乙債権」という。)との相殺に関する次の記述は、民法の規定等によれば、正しいですか?それとも、誤っていますか?

甲債権がAB間のパソコンの売買に基づく売買代金債権であったときは、Aは、Bに対してパソコンの引渡しの提供をしていなくても、乙債権との相殺をもってBに対抗することができる。

解答:誤り

自働債権に同時履行の抗弁権が付いている場合には、相殺することができません。

ですので、Aは、Bに対してパソコンの引渡しの提供をしなければ(同時履行の抗弁権が消滅しなければ)、乙債権との相殺をもってBに対抗することができません。

問題にチャレンジ

相殺に関する次の記述は、民法の規定等によれば、正しいですか?それとも、誤っていますか?

受働債権に相手方の同時履行の抗弁権が付着している場合には、相殺することができない。

解答:誤り

受働債権に同時履行の抗弁権が付着している場合、相殺できます。

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